身体障害者が、みずからの肉体を武器に独創的な舞台空間を生みだす。
そんな稀有な身体表現の芸術性によって、世界でも高い評価を得てきた劇団が日本にあることを、ご存知でしょうか。
1983年に創立された劇団態変は、舞台を縦横に動きまわり交錯する身体障害者の、そのうごめき緊迫する肉体の存在感によって、類まれな芸術表現を積み重ねてきました。
個々の演戯者はレオタードを身につけ、それぞれに「障害」のある体の線をいやがうえにも際立たせて舞台にあらわれる。特徴と個性をもつその肉体が、おのおの独得な律動・呼吸・ペースで身もだえるように動き、転調しながら、集団でこもごもに交錯しつつ、前後・左右・上下にうごめくのです。こうして舞台上に、そのとき一回限りにあらわれる動的なアンサンブルの妙味・迫力は、劇団態変ならではの未曾有のダイナミズムで観るものの心を打つはずです。
その表現はついに「障害が有る・無い」の違いを越えて、わたしたちがみなそれぞれに固有の肉体をもっていること、その肉体の内側で、それぞれに独得な苦悶や歓喜、希望や絶叫を秘めながら生き、そのおのおのが、交錯しながらもしりぞけ合わずに共存していくほかないいのちであることを、鮮烈に体感させる。そんな不思議な啓示へとわたしたちをいざなうのです。
この劇団は、作・演出を手がける代表の金満里自身をはじめ、演戯する団員はみな身体障害をかかえる者ばかりという困難さをもちながら、よくその活動を持続し、また日本国内での公演だけではなく、すでにアフリカ・ケニアでの公演(1992年)を皮切りに、数度におよぶ海外公演をも重ねてきました。1997年にベルン・ダンス祭典(スイス)に招かれた劇団態変の舞台は、劇評のなかで「今夜、革命が起きた」という衝撃の声が発せられるほどに、従来の身体表現や舞台芸術における常識をくつがえす、斬新な表現力を示しました。 彼らの舞台をまのあたりにすると、「美しく鍛え上げた肉体」の「優美」さや、あるいは「超絶した技巧」ばかりを称えることに傾きがちな、そういう美意識そのものを根底から揺すぶられる、その痛快な驚きが人びとをとらえたのです。
このたびその劇団態変が『ファン・ウンド潜伏記』という新しい作品をもって、韓国での公演に乗りだすプロジェクトを打ち出し、準備を始めました。金満里作・演出によるこの新作は、2009年秋に大阪で初演され、この劇団の新境地をひらく作品として好評を得ています。
わたしたちは、劇団態変の新たな挑戦を応援し、韓国公演を実現するために、多くのみなさんがこのプロジェクトに参加してくださるよう訴えます。
2010年5月30日
劇団態変・韓国公演を共に実現する会
<呼びかけ人> ※12月11日更新
愛沢革(詩人、翻訳家)
井面信行(近畿大学文芸学部長)
大越愛子(近畿大学教員)
大野悦子(大野一雄舞踏研究所コスチュームディレクター)
大野慶人(大野一雄舞踏研究所代表)
キタモトマサヤ(劇団遊劇体主宰)
金時鐘(詩人)
清眞人(近畿大学教員)
久保惠三郎(牧師、記録映画監督、俳優)
高賛侑(ノンフィクション作家、劇作家)
小池照男(映像作家)
小暮宣雄(京都橘大学教員)
小堀純(編集者)
坂手洋二(劇団燐光群劇作・演出、日本劇作家協会会長)
笑福亭銀瓶(落語家)
辛淑玉(人材育成コンサルタント)
芹川藍(劇団青い鳥主宰、演出家、アクティング・セラピスト)
武田一度(劇団犯罪友の会主宰)
趙博(浪花の歌う巨人)
丁章(詩人)
天鼓(ヴォイスパフォーマー)
中川敬(ミュージシャン/ソウル・フラワー・ユニオン)
中山千夏(作家)
長井八美(プロデューサー)
西堂行人(演劇評論家、近大教員)
野村雅一(総合研究大学院大学副学長)
畑律江(新聞記者)
飛田雄一(神戸学生青年センター館長)
平田オリザ(劇作家・演出家、大阪大学教授、内閣官房参与)
平田大一さん(演出家・南島詩人)
福本年雄(ウイングフィールド代表)
松本雄吉(劇団維新派主宰)
三上寛(フォーク歌手)
三木草子(フリー)
水野直樹(京都大学教員)
ミヒャエル・シュレーン(ドイツ文化センター・大阪館長)
鷲田清一(哲学者)
(以上、五十音順)